2016年2月23日火曜日

「糖質制限は危ない」は本当か?!

糖質制限は危ないのか

結論から書きましょう。糖質制限は危ないです。

ただこれは、「包丁は危ないです」「真水を飲み過ぎると中毒になります」という文章と同じであまり意味はなく、もっと重要なのはどういった場合にどういう危険性があるのかという点です。このレベルの総論に価値はありません。

上の文章の意図をより正確に表現すると以下となります。

糖質制限は、定量化されていない状態でやみくもに糖質の摂取を減らす形で継続して行った場合、健康を損なうリスクがある。

糖質制限のリスク

事の発端は糖質制限ブームの先駆けとなった本である「おやじダイエット部の奇跡」著者の桐山秀樹の急逝でした。61歳という若い年齢での死。死因こそ心不全・急性心筋梗塞であるものの、間接的に糖質制限による急激な体重の減少が影響しているのではないかという意見を至るところで目にするようになり、そのリスクをきちんと理解したいといういう思いに駆られました。

糖質制限について否定的なタイトルの本で少し違うアングルから論じているものを3冊ほど選び、下記まとめました。参考資料として記事の下に貼付けます。

総論として、糖質制限は「糖質を定量化して」「弱点を補いながら」「正しい目的(過剰な痩身ではなく健康体になるための減量)」の為の手段としては一定の効果がある。しかし、近年その手軽さと即効性にばかり目が向かいリスクを認識せずに過剰なやり方で取り組む人が増えており、そこに対して警鐘を鳴らしたかった、という善意と情熱を読み取りました。

おそらく現在懸念されている糖質制限による健康リスクと原因はだいたい以下です。

1. 頭痛・末梢神経障害:過剰な糖質制限による微量栄養素不足


白米、麺類などの糖質はいわゆる精製された「砂糖」と同等に扱われる事が多いのですが(例:白米お茶碗一杯で角砂糖10個分! など)、これらは全くの別物です。精製された砂糖が99.2%糖質なのに対して例えば玄米は糖質(59.8%)+水分(35.6%)+微量の栄養素(4.6%)と数%の栄養素を含んでおり、実はその栄養素というのが体にとっては非常に重要です。

具体的には葉酸、ビタミンB1、ビタミンC、カルシウム、鉄分などであり、スタンフォード大学カードナー博士の2007年の研究によるとアトキンスダイエットと通常のカロリー制限を比較した場合、これらの栄養素の摂取量が1/3〜1/2の被験者の中で標準に足りておらず、概ね数十%の各栄養素の不足が認められたとのことです。

これらの栄養素は言うまでもなく体を機能させる腕で重要な役割を果たしており、例えばビタミンB1が不足すると脚気になるリスクが高まり、ビタミン類全般の不足は末梢神経障害を招くリスクを高めます。

2. うつ病:炭水化物不足によるセロトニン生産の減退

うつ病はセロトニンやノルアドレナリン等の脳内神経伝達物質の不足が引き金になると言われていますが、セロトニンの主な原料の一つに必須アミノ酸のトリプトファンがあります。このトリプトファンは魚や肉等の動物性タンパク質から分解されるため、一般的に高タンパク質に傾きがちな糖質制限はむしろ追い風になりそうなのですが実はそこに見落とされがちな視点がありました。

トリプトファンはビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムなどの微量栄養とともに合成されるのですが、この合成を促進しているのが炭水化物なのです。なので、原料ばかりが増えても成果物であるセロトニンの合成が十分に行われない事態が起きて、それがうつ病への引き金となる可能性があります。

3. 死亡率の上昇:過度な糖質制限による低血糖

血糖値は低ければ低いほどよいかというと、そうではないという話です。

そもそも糖質制限自体のルーツの一つが糖尿病患者の治療だったこともあり、厳格な血糖値管理(HbA1c値6.0%以下)が理想とされてきましたが、2001年のアメリカ国立衛生研究所の大規模研究および世界中で行われたその追試により「血糖値の管理はほどほどがよい(HbA1c値7.5%程度)」と証明されました。

この極度の低血糖になる程度の糖質制限を2年以上の長期に渡り実行している人は少ないとは思いますが、血液から完全に糖が消えることは良い事ではないという証左です。

4. 消化器官の不調:炭水化物に含まれる食物繊維不足

食べたものは消化器官から吸収されますが、腸内環境を整える際に大きな役割を担っているのが食物繊維です。食物繊維が持つ機能は主に7つあり、排便力増加・腸内環境改善作用・過食抑制効果・血糖値上昇抑制効果・胆汁酸吸着能・老廃物吸着効果・免疫活性か作用です。

糖質制限をするさい、炭水化物=糖質+食物繊維、であるため結果として食物繊維の摂取量が必要量を大幅に下回るケースが多く、その事が上記の7機能の不全を招き問題を起こすことがあります。

5. 抗酸化・免疫力の低下:高糖質な根菜を避ける事によるファイトケミカルの不足

糖質制限を始めた人は色々な食べ物から高糖質のものをあぶり出し目の敵にするのですが、そういった矛先が向かう一つに「根菜」があります。人参、タマネギなどもその一つ。しかし実はこれらの根菜には肉を中心とした高タンパク質な食事からは得られない貴重な栄養素があります。それがファイトケミカルです。

みなさんが良くご存知であろうβカロチンやリコピン、少しマイナーなところだとイソシオシアネートやスルフォラファンなどと言ったファイトケミカルには発癌抑制が認められており、アメリカ国立がん研究所発行のデザイナーズ・プログラムに記載されています。

極端に根菜を避けてしまうとこれらの物質を適度に体内に取り込む事ができなくなり、体内に酸化物質が溜まり、免疫力の低下を招く可能性があります。

6. 心臓病リスクの上昇:糖質制限による間接的な赤肉・加工肉の過剰摂取

糖質制限=大好きなお肉食べ放題!…となる方も多いと思うのですが、実はお肉にも気をつけるべきポイントがありますよという話です。

2011年*/2013年**の研究で赤肉に含まれるカルチニンが腸内細菌によりトリメチルアミンとなり、さらに肝臓でトリメチルアミン-N-オキシドとなり、最終的に動脈硬化等の心血管疾患に繋がるという論文が発表されました。

また、ベーコン等の加工肉には化学調味料・飽和脂肪酸などが多く含まれておりこれらがコレステロール値を上昇させる働きをします。

具体的な数値としては、赤肉であれは160g/日摂取するグループは10-19.9g/日摂取するグループに対して死亡率が14%程高く、加工肉であれば160g/日摂取するグループは10-19.9g/日摂取するグループは60%程死亡率が高かったとあります。特に加工肉に関するリスクが取り上げられており、50g/日摂取量が増える五都に18%死亡率が増加し、20g/日減らすごとに3.5%軽減されることが示されています。

加工肉に関しては「シリコンバレー式 自分を変える最強の食事」においても危険性が指摘されており、また著書の中では穀物でなくグラスフェッドの肉を推奨しています。

まとめ
  1. 糖質制限反対派が懸念しているのは「自己流」で「定量化されいない」糖質制限により特定の食物(肉等)の過剰摂取と必須栄養素(ビタミン、ミネラル、ファイトケミカル、食物繊維)の不足に起因する健康上の問題
  2. 糖質制限食において嫌厭されがちな複合糖質(穀物)である白米、麺類などに含まれる微量栄養素は体を正しく機能させる上で大切である
  3. 同様に高糖質が故避けられがちな根菜も抗酸化・免疫強化・がん抑制などの機能を持つファイトケミカルの摂取の為に摂るべき
  4. 食物繊維は腸内環境を整え内側から健康を増進する上で必須
  5. 糖質そのものもセロトニンの生産を促進する機能を持つため完全に断つべきではない
  6. 糖質制限と対になることの多い高タンパク食に関しても、特に加工肉に関してはその食品の持つリスクを理解した上で過剰摂取は避けるべきである
  7. 「短期(ここでは半年〜1年以内)」における体重の減少効果に関しては低脂肪ダイエットやカロリー制限と比較しても一番効果があることを証明する事例は多い
  8. 糖質制限反対派が基準として参照としているのは日本糖尿病学会が推奨している「130g以上の糖質+20gの食物繊維」もしくは「全摂取カロリーの50%を炭水化物から摂る」というもの。日本人の糖質摂取量が260g/日であるので、彼らの参照点を基準にしたとしても差分130g=520kcal=約70g/日(2kg/月)程度の減量は可能
といった所でしょうか。

下記、参考文献です。


今回3冊読んで非常に興味深かったのは、腸内細菌・抗酸化物質・糖質の果たす役割などという観点から「シリコンバレー式 自分を変える最強の食事」と重なる論点が幾つもあった事でした。物事は全て白黒では決着が着かず、ことこの分野に関してはここ数年で非常に多くの新しい研究結果が出ているためぱっと見混迷を極めています。

その中でも一見対立する主張の共通項や主張の根拠の検証等を通じてできるだけ有益な情報を集め続け「楽に」「楽しく」「健康的に」標準体重までの減量を行いたいと思います。

完全無欠コーヒーで食べながら痩せる

*Z. Wang et al. (2011). “Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease”. Nature 472: 57–63.
**R.A. Koeth et al. (2013) “Intestinal microbiota metabolism of L-carnitine, a nutrient in red meat, promotes atherosclerosis”]. Nature Medicine 19: 576–585.

1 件のコメント:

  1. 詳しくは検討していないが、だいたいは正しいと思う。糖質制限はLDLコレステロールを上昇させ、これは心臓疾患などの危険因子であるというメタ分析がある。ただし、日本の疫学研究によると、LDLの高い人は長寿である。つまり、糖質制限に関して、未知の危険因子があるようだ。素人だが、ダイエット、長寿関係で「あざむかれる知性」(ちくま新書)をまとめたので、暇な時に読んで欲しい。長生きしたければ運動すべきで、ダイエットはほどほどにした方がよい。

    返信削除